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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(あ)5266号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人定塚道雄、同定塚脩の上告趣意第一点について。

原判決が、第一審判決の判示冒頭において「被告人は昭和二十七年五月二十五日施行の富山県高岡市長選挙に際し、同年五月五日立候補し、同選挙に当選したものである」旨の事実を認定し、この部分については特に証拠として挙示するものがないが、第一審の所在地である富山県高岡市及び其の附近においては、かくのごとき事実は普く一般人に知れ亘った事柄であって、いわゆる公知の事実に属し敢て証拠の証明力にまつまでもなく、裁判所において直ちに該事実の存在を肯定し得る旨を判示した点を捉えて、論旨はいわゆる公知の事実として証明の負担が解除されていないと非難するのである。しかし、公職選挙法による選挙は、たといそれが地方公共団体に関するものであっても、常に公行せられ、立候補者および当選者は周知させられるわけであるから、第一審判決の判示冒頭における前記事実のごときは、いわゆる公知の事実に属し、その認定には必ずしも証拠によることを要しないものということができる。それ故、所論は理由がない。

また第一審判決が判示第一事実以下の証拠としてそれぞれ挙げている被告人の検察官に対する供述調書中第一回供述調書の記載(九九一丁)によれば、被告人は立候補および当選の事実について供述している。そしてこの立候補および当選の事実は、判示第一ないし第三の事実のすべてに共通するがためにこれを冒頭に掲記し、一々繰返す煩をさける表現を用いたに過ぎないものであるが、その実質においては第一、第二、第三の各事実と密接不可分の関係においてそれぞれその内容をなしているものと解するを相当とする。従って第一審判決の判示冒頭における前記事実は、前述の供述調書という証拠により証明されているものということができる。論旨はこの点においても採ることを得ない。

同第二点について。

所論は判例違反をいうが、引用の判例は旧刑訴法に関するものであって、証拠の標目で足りる現刑訴法の下における本件には適切でないから、適法な上告理由に当らない。なお、現刑訴法三三五条一項の解釈としては、判文と記録とを照らし合せて見て、どの証拠でどの事実を認めたかが明らかである限り違法ではない(判例集四巻九号一六九六頁)。また証拠の標目として掲げられた証拠の中判示に副わない部分は証拠としなかったものと解するを相当とする(判例集五巻一三号二六三〇頁)。本件において判示第一事実は、被告人の検察官に対する第一回、第二回供述調書と関連を有し、平等良治の検察官に対する供述調書中第一〇回、第一二回のものを中心として他の供述調書とも関連を有し、早川市右ヱ門の検察官に対する供述調書中第一回、第二回、第三回、第五回のものを中心として他の供述調書とも関連を有し、これらの証拠で判示第一事実を認定したことは明らかである。

判示第二事実は、被告人の検察官に対する第一回、第二回供述調書と関連を有し、近藤治郎右ヱ門の検察官に対する供述調書中第六回、第七回、第一一回、第一三回のものを中心として他の供述調書とも関連を有し、平等良治の検察官に対する供述調書中第二回のものを中心として他の供述調書とも関連を有し、これらの証拠で判示第二事実を認定したことは明らかである。

判示第四事実は、被告人の検察官作成第一回、第二回供述調書と関連を有し、平等良治の検察官に対する供述調書中第一回、第二回、第三回、第四回、第五回、第六回、第一二回のものを中心として他の供述調書とも関連を有し、これらの証拠で判示第四事実を認定したことは明らかである。

それ故、第一審がなした証拠の標目の示し方には違法はなく、原判決も結局正当であって、論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は判例違反をいうが、引用判例は本件に適切でなく適法な上告理由に当らない。なお原判決のごとく立候補をした者が出納責任者の文書による承諾を得ないで選挙運動費用を支出した行為に対し公職選挙法二四六条四号、一八七条一項を適用する案件においては、所論のようにその選挙運動費用の内容を一々挙示しなければならないものということはできないから、論旨は理由がない。

同第四点について。

所論は、原判決の認定に副わない事実を前提として単なる法令違反を主張するものであり、所論引用の判例は本件に適切でないから、論旨は上告適法の理由に該当しない。

同第五点、第六点について。

論旨は、結局事実誤認、単なる採証法則違反を主張するに帰し、上告適法の理由に該当しない。なお所論のような経験則違反を認めることはできない。

よって刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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